食いしん坊のクローゼット
エッセイスト | 「今日もていねいに。」

食いしん坊のクローゼット

024 ベニントンポタリーのマグカップ

はじめて訪れたサンフランシスコのカフェでコーヒーを注文すると、ウェイトレスがマグカップをテーブルに置いて、無造作にポットからコーヒーを注いでくれた。コーヒーは口が火傷するくらいに熱かった。マグカップを両手で包むと、ぼってりとした厚みがぼくの冷えた手を温めた。そんなふうに手を温めながら、カフェでぼんやりとしながら過ごした。厚みといい重さといい、手で包んだ感触といい、アメリカのマグカップっていいなと思った。

それからニューヨークを訪れ、オープンしたばかりのディーン&デルーカという食材店に衝撃を受けた。おいしいだけでなく美しさにもこだわったセレクトや、洗練された陳列、何を聞いてもくわしく教えてくれる店員など、まさに食の美術館といえる魅力にあふれていた。

店の名が手書きされたオリジナルのマグカップを手にすると、これこそアメリカのマグカップという趣で買わずにいられなかった。見ると、アメリカ・バーモント州の陶器ブランド「ベニントンポタリー」製のもので、底から口に向かって少し細くなったクラシカルなシルエットがすてきだった。もちろん分厚くて重い。もう37年も前のことだ。

冬になると、毎朝このマグカップに熱々のコーヒーをたっぷりと注ぎ、まずは両手で包んで手を温める。そうやってぼんやりと過ごす朝にしあわせを感じている。

 

食いしん坊のクローゼット

001 三時のおやつに菊皿      
002 アスティエの角皿        
003 リーサ・ハッラマーのデザート皿 
004 1930年代のカフェオレボウル    
005 「if」のピューター皿
006 白磁の茶椀
007 木の平皿
008 ブルーウィローの皿
009 安南焼の茶碗
010 成田理俊のステンレス皿
011 サーラ・ホペアのコップ
012 仲村旨和のカッティングボード
013 レモンの木の小皿
014 マルック・コソネンのバスケット
015 スティーブ・ハリソンの皿
016 鳥獣戯画の盛鉢
017 ラッセル・ライトのカレー皿
018 木曽ひのき漆器の弁当箱
019 欅の千筋茶碗
020 パリの買い物
021 アラビアのライス
022 沖縄の「やちむん」
023 ハルデンワンガーのセラミック皿
024 ベニントンポタリーのマグカップ
025 ウォルター・ボッセの「青いクマさん」

松浦弥太郎

著者プロフィール

エッセイスト
松浦弥太郎

2002年、セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年からの9年間『暮しの手帖』編集長を務める。その後、IT業界に転じ、㈱おいしい健康取締役就任。2006年より公益財団法人東京子ども図書館役員も務める。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Delucaマガジン」編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。映画「場所はいつも旅先だった」監督作品。著書に「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」など著書多数。

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