
オイシサノトビラ
山と感覚の扉

オイシサノトビラ
山は、日常にはない、美しい瞬間を与えてくれる場所。
山岳収集家として活動する鈴木さんはそう語る。
鈴木さんと山の出会いは大学院時代の課外授業「山ゼミ」に遡る。長野県の大学所有の山小屋で過ごした特別な時間が、新しい世界の扉を開いた瞬間だった。山を囲む自然が持つ力強さと静けさ、それが生み出す空気、そして機能を追求してデザインされたシンプルな山の道具 がとても美しく見えた。
その後、彼女はアウトドアメーカーに就職。 何度か山に通ううちに、山の持つ多面的な美しさに気づくようになり、写真を撮ることをはじめる。景色の違いはもちろん、同じ山でも季節や時間帯によって表情が変わる。細部に目を凝らすと、あちこちに面白い造形や色の組み合わせがある。自分では創り出せないものが、自然とそこに“ある”ことが驚きだった。
登山用品のデザインに携わった後、山に登る、そこでしか見られない瞬間を見つける、そして形にする、そんな活動をしていくことを選んだ。
いま自分が好きと感じるものを素直に表現する。そんな気持ちから生まれたのが、山で見た景色をハンカチに仕立ててゆく〈MOUNTAIN COLLECTOR〉というプロジェクトだ。鈴木さんがつくりだしたハンカチ は、風景だけを捉えたものではない。それは、鈴木さんが山で体験した「感情の記録」でもある。彼女が撮った写真には、山の冷たい風、温かな陽光、そして心に響く静けさが閉じ込められている。その一枚一枚が、まるでその時の鈴木さんの心情を映し出すかのようだ。
「自分だけが見つけられるであろうものを探すことが好き。それを集めると宝物のように感じられるんです」
鈴木さんの写真や文章を見ると、いつもこの一言を思い返す。
彼女の作品を通じて、私たちは彼女の歩んできた道と思いをどこか感じ取ることができる。それはただの風景ではなく、山で得た宝物を共有してくれるような温かさが込められているからだ。
これからも鈴木さんは、山と向き合い、感動をそのまま作品に閉じ込めていくだろう。
「山は見るものではなく登ることで感じるもの」
そう語る彼女はこれからどのような景色を捉え、どのような美しさを捉えるのだろうか。
「山と感覚の扉」では、山登りとその過程における鈴木さんの記憶と、おいしさについてお届けしていく。
連載
オイシサノトビラの扉

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「おいしさって、なんだろう?」をテーマに、その人の生きる素となるような食事との出合いやきっかけをつくることを目指しています。
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