
自然と、道具
土用の丑の日に、鰻

プロデューサー
竹下充
土用の丑の日に鰻を食べる。この風習は、平賀源内が鰻を売るために作ったダジャレ的なキャッチコピーが起源だということを、多くの人が知っているはずです。それなのに、一度習慣づいたことは恐ろしいほど変わらないもので、250年経った今でも、土用の丑の日の鰻は変わらず盛り上がっています。
そもそも丑の日なら「牛を食べた方が良いのでは?」と思ったり、「土用の丑の日って夏だけじゃなく、春・秋・冬にもあるよね?」と思ったりもしますが、そんな複雑な気持ちはさておき、とにかく夏になると鰻が食べたくなるのは、頭の中にしっかり刷り込まれた事実です。もちろん、平賀源内のプロモーション効果だけではなく、日本では昔から鰻を食べていたことや、鰻に夏バテ防止に効く栄養が豊富に含まれていることなど、理にかなった理由もあります。ですから、夏に鰻を食べる習慣の理由を「これだけ」とは一概に言えません。それでも、この時期になると近所の魚屋でも店先に炭火グリルを出し、鰻の蒲焼を販売しているので、やっぱり匂いにつられてつい買ってしまいます。
そんな鰻、日本だけでなく世界各地でも食べられています。先日、『GO OUT KOREA』(実は『GO OUT』は提携出版社を通じて韓国版も展開しているんです)が主催するハイキングイベントの取材で訪れた、韓国のGo-changという街も鰻の産地でした。街の至る所に鰻料理の店が立ち並び、道には鰻の看板まで出ています。日本を出発するときには、まさか鰻の産地に行くとは考えてもいなかったので、到着してびっくりしました。
『GO OUT KOREA』の社長から「せっかくなので鰻料理を食べよう」と誘われて連れて行ってもらったのですが、日本の鰻料理店とはまるで違い、テーブルの中央にグリル鉄板が備え付けられた、いわゆる焼肉屋スタイルの席が並んでいます。まるでサムギョプサル屋のようです。席に着くと、まずはバリエーション豊富なキムチが登場。この時点でもやっぱりサムギョプサルを連想してしまいます。
この雰囲気に合う鰻料理とは一体どんなものだろう?とキムチをつまみながら待っていると、お待ちかねの鰻が登場。運ばれてきたのは、タレ焼きと白焼きの2種類。見た目は日本の鰻とほぼ同じで、食べる前から美味しさが伝わってきます。鰻はすでに焼き上がり、一口サイズにカットされているので、鉄板にのせればすぐに食べられる状態です。


そしてこの鰻の食べ方が、まさにサムギョプサル方式。サンチュに鰻とキムチ、調味料やその他具材を包んで、一口でパクリ。鰻をこんなスタイルで食べたのは初めてでしたが、タレ焼きも白焼きも甘くしたり辛くしたりと、自分好みにカスタムできるので、気がつけばかなりの量を食べていました。韓国ではこの食べ方が最もポピュラーで、日本のようにご飯と一緒に食べることは少ないそうです。
翌日、ハイキングイベントで提供されたご飯も、地元の名産である鰻を使ったものでした。こちらは韓国では珍しい、ご飯と合わせた「ひつまぶし風の混ぜご飯」。甘いタレとわさびが添えられており、日本スタイルを意識しているのだと感じました。「山椒じゃなくてわさびなんだ」と思いつつ、美味しくいただきました。ちなみに韓国にも、土用の丑の日のような「伏日(ポンナル)」があり、この日に滋養強壮に良い料理として鰻を食べる習慣があるそうです。

わたしの素
歳を重ねると、つい通ぶって「鰻は白焼きだよね。塩とわさび」と言ってしまうことがありますが、本音はやっぱり蒲焼。タレがたっぷりかかった鰻重が一番好きです。「肝吸いはマストだよね」とも毎回言いますが、正直なところ味よりも縁起物感覚で頼んでいることは秘密です。
そんな私ですが、鰻ざくも大好物。子供の頃には気づけなかった“大人の味”だと思っています。お店で頼むとおつまみ程度の量しか出てこないので、お腹いっぱい食べるために自分で作るほど。熱い鰻と冷たいきゅうり、甘い鰻と酸っぱいきゅうり、ふわふわの鰻とシャキシャキのきゅうり——対照的な組み合わせが生む濃淡で、味も食感も最後まで楽しめます。
写真の鰻ざくも自作で、もちろんお腹いっぱい食べるためにきゅうり多め(笑)。ちなみに、濃淡のある料理でもう一つ好きなのがアイスクリームホットサンド。これについては、またの機会にご紹介したいと思います。

連載
自然と、道具の扉

プロデューサー
竹下充
自然が大好きで自然と道具でとことん遊んできた竹下さんと仲間たちの素となった食事。