寒くて熱かった韓国視察
ドラマプロデューサー | 映像と記憶

寒くて熱かった韓国視察

ドラマプロデューサーという仕事柄、もちろん仕事中は始終ドラマのことを考えているわけだが、仕事以外でもドラマを観るのが好きだ。日本のドラマはもちろん好きだけど、どうしても仕事目線になってしまうことは否めないので、10年ぐらい前から息抜きでドラマを楽しみたい時は海外で作られた作品を観るようになった。アメリカのドラマを中心に、ドラマ『トッケビ』を観てからは韓国のドラマもよく観ている。ここ数年でも、『私たちのブルース』と『ムービング』という人生ベストドラマに入れたくなるような作品に出合わせてもらった。え!?という奇抜な設定を思わぬ感動の着地に連れていってくれたり、非常に重厚で伏線のはりめぐらされたサスペンスにドキドキしたり、韓国ドラマのバリエーションの豊かさ、奥行きの深さにいつも驚かされてばかりだ。

そんな感じで韓国ドラマの一ファンだったのだが、ご縁があって韓国の映像業界の現状についてレポートを出してほしいという依頼を受け、一緒に会社をやっている友人と共に今年の2月に韓国に視察・取材に行ってきた。すごく刺激的で、勉強になることがたくさんあったので、藤本信介さんのインタビューが実現したら、そのあとでその時のことを振り返って書いてみたいなと思っていた。

渡韓したのは2月下旬、ソウルがまさかの大雪の日で、仁川空港の外は吹雪だった。目的地の坡州(パジュ)まで車で移動して宿泊し、翌朝起きると外は一面雪景色。
まるでスキーリゾートのような風景の中、せっかくだから散歩がてら歩いてみようと最初に見学させてもらうCJ ENM(CJエンタテインメント)のスタジオに向かって、誰もいない雪道を友人と二人歩いた。パジュには様々な撮影施設があり、宿泊エリアにはホテルもたくさんあったが、その日は大雪だったせいか誰にも会わず、美しく静かだった。
スタジオまでの道中、何もないところに突然電車のオープンセットが建てられていた。四方と天井をクロマキーカーテン(あとで背景をVFXで合成しやすくするためのグリーンバック)で囲めるようになっていて、おそらく過去に使われていた電車の車両を再利用しているのだと思うが、スタジオ内ではなく完全に外で、プレハブのようなところにあったのでびっくりした。渡韓前に、韓国の映像業界で働く方何人かにインタビュー取材をしたのだが、「とにかく一度やってみる」という精神、失敗を恐れずチャレンジする精神を言葉の端々から感じた。急拵えで作ったように見えるこの電車セットも、その精神の表れなのかもしれない(日本には自分が知る限りこういうものはないし、あったらいいなあと思う)

あまりの寒さにどこかにコーヒー屋さんはないかなとNAVER Mapで探すと、一軒だけ出てきたので行ってみる。残念ながらまだ空いていなかったが、中にスタッフらしき女性がいたのでダメもとで「コーヒーは買えますか?」と聞いたところ、オープンはしていないけど外は雪だし仕方ないわね、作ってあげる、というような返答をもらい、しばし待つ。こういうルール外の対応をしてくれるのも韓国っぽい気がする。

どうにかたどり着いたCJエンタテインメントのスタジオは、本当に巨大だった。外側をぐるぐる回っても正しい入り口がどこなのかもわからない要塞っぷりだ。

バーチャルプロダクションという、カメラの位置情報と連動した映像を背景のLEDディスプレイに表示して、その前で役者が芝居をして撮影するという手法を使う最新のスタジオを見せてもらい、もうここまで技術が進化しているのか、ということを目の当たりにした。

実際の天候や気温に左右されずに、風も雨も様々な照明も自由自在、まさに夢のようなスタジオだった。まだいろいろ実験段階だけれども、ドラマでは『涙の女王』で初めてバーチャルプロダクションでの撮影を行ったとのこと。そして一番感動したのは、スタジオ施設自体が本当に大きく、大小様々なスタジオ、カーアクションなどが撮れる道路、オープンセットが建てられる広大な敷地が一ヶ所に揃っているということだった。ソウルから車で1時間程度にあるここに来ればたいていの撮影ができる。これは撮影チームにとって本当に大きな意味を持つなと感じた。

近くの食堂で温かいスープご飯を食べ(すぐに出てくる温かいご飯がスタジオの近くにあるのも最高)、パジュにある他のスタジオで行われている撮影の見学やインタビュー取材などもさせてもらい、ソウルに帰って晩ご飯を食べた。友人が調べてくれたミナリ=せりの焼肉屋さんに行き、その日の感動を話し合いながらもりもり焼肉を食べた。産後まだ3ヶ月ぐらいだったので、出産以来初めて子供と離れて食べるご飯と、久しぶりに飲んだビールはしみじみ美味しかった。

レポートは近日中に誰でも読める状態になるようなので、またどこかでお知らせしたいが、制作体制もスタジオ施設も本当に学びになることばかりだったし、何より刺激を受けたのが「とにかくトライしてみる」という姿勢や、何かを実現させるために大胆な工夫を厭わない精神だった。私も失敗を怖がってばかりいないで、いろいろ挑戦してみよう、と会社の復職前に大きく背中を押してもらえたように思う。

わたしの素

藤本信介さんや韓国通の友人たちのおかげで、ここ数年で何度もソウルに遊びに行っている。昨年も数人の友人たちと渡韓して、美味しいものをたくさん食べてまわった。韓国に行くとその料理の専門店が多く、大勢で遊びに行くと大鍋を頼んでみんなでシェアしてまた次のお店に移動し、何軒もハシゴしながらいろいろなものを食べられるのがとても楽しい。そして洋服屋さんやコスメショップなども夜遅くまでたいていのお店が開いているしそこかしこに屋台もあり、街を歩いている人たちがみんなパワフルに遊んでいるように見えてこちらも元気になってしまう。しばらくは仕事での渡韓が続きそうだけど、いつか娘も連れて一緒に遊びにきたいな、どんなところをまわろうかな、と今から妄想している。

佐野亜裕美

著者プロフィール

ドラマプロデューサー
佐野亜裕美

CANSOKSHA代表社員。ドラマプロデューサー。
「ウロボロス」「おかしの家」「99.9-刑事専門弁護士-」「カルテット」「この世界の片隅に」「大豆田とわ子と三人の元夫」「17才の帝国」「エルピス」など。

メッセージ

規約への同意

※お送りいただいたご意見は編集部が受け取り、アンバサダーにお届けするほか、今後の記事作成やサイト運営の参考とさせていただきます。 ※お送りいただいたご意見をアンバサダーおよび編集部が今後の記事で一部引用する場合があります。ご了承ください。 ※募集していない質問や要望に対し、個別具体な回答はいたしません。 ※誹謗中傷、差別的な発言、公序良俗に反する内容の書き込みは固くお断りいたします。

連載

おいしさってなんだろう?をテーマに
その人らしい"おいしさ"をもつ筆者たちの連載をお届けしています。

おすすめ