パリで食べたロンドンの味 ーパリ篇ー
ロンドン篇はこちら
ロンドンからパリに戻った5日後。私は、ル・ドワイヤネに向かった。今度は、カフェ・セシリアに一度行ったことのある、パリに住む友人と一緒だ。
果たして、時間ごと味わった店の料理が、全く異なる内装の店でどんなふうに出てくるのだろう?と思った。そして、それは、どんなふうに目に映るのだろう?
最初に運ばれてきたのは、ル・ドワイヤネではお決まりの自家製シャルキュトリーと、カフェ・セシリアでいつ行ってもメニューにある、セージとアンチョビのフライだ。ル・ドワイヤネの畑にはセージがたくさん生えているから、これはもう、初手を飾るにもってこいのひと皿だと思った。少しして、スモークした鰻とじゃがいものミルフィーユが登場した。上にちょこっとホースラディッシュのクリームがのっている。料理にホースラディッシュが添えてあるとイギリスっぽいなと感じるけれど、土に植わっている状態を初めて見たのは、ル・ドワイヤネの菜園だった。リュバーブと並列して栽培されていて、青々と葉を茂らせ、何の野菜かわからなかったから、シェフに訊いたのだ。そのたくましい姿にとても驚いた。
ひと通りの小皿料理が終わり、ル・ドワイヤネの定番“菜園の野菜を使った今日のひと皿”が出てくると、仔牛の腎臓をのせたオニオントーストが後に続いた。そこで少し風向きが変わったと思う。「これさ、ワインじゃなくてビールだよね?」「うん、これ、ビールだと思う」。白ワインで始めていたけれど、茶色いオニオントーストはビールを欲する味で、実際よく合った。
そこからは気づけば、肉料理に合わせて出てきたサラダ以外、どれもカフェ・セシリアの料理だった。そして、ほとんどがレシピ本にも掲載されていた。コラボレーションというと、それぞれの人(店)の持ち味の組み合わせ、という印象を受けることが多いように思ってきたけれど(もちろん敢えてそうしている場合も少なくないだろう)、この夜のコースは、双方があまりに馴染んでいて、コラボレーションと感じないくらいだった。たしかに、ル・ドワイヤネではいつも出るメイン料理の付け合わせの野菜のグラタンがない、とか、肉料理の前に魚料理がなかったな、とか、気づいたら、そういうイレギュラーな点はところどころにあったのだけれど、そんな細かなことは全然意識すべき点ではなかった。ル・ドワイヤネの皿に盛られてテーブルに運ばれてきたカフェ・セシリアの料理は、どこにもよそよそしさがなくて、そこで出される料理として出来上がっていた。

私は厨房に背中を向けて座る席だったから、ずっと見ていたわけではない。でも、厨房に目を向けるたびに、シェフは作業台に向かっているか、鍋を握っているかで、盛り付けの仕上げはル・ドワイヤネのチームに任せていた。厨房に向かって座っていた友人曰く、肉料理のソースだけはシェフがかけていたらしい。
その様子に、ゲストシェフながら、シェフではなくて、お皿にスポットライトが当たっているように感じた。料理が主役だった。どこにも誇張がなく、しみじみすべてがおいしかった。
いつだって食体験はそのときたった一度きりのもので、だからこそ、そこで得た感覚を体に刻みたい、過ごした時間を記憶に留めたいと思うけれど、この夜のような食体験は初めてだった。それぞれの店で、それまでに少しずつ重ねてきた食事の時間の先に訪れた、すばらしいひとときだった。

メッセージ