食いしん坊のクローゼット
エッセイスト | 「今日もていねいに。」

食いしん坊のクローゼット


019 欅の千筋茶碗

ラジオで「いちばん好きな食べ物は何か?」と聞かれて、「炊きたてごはんと梅干し」と答えた。湯気の上がったごはんを、しゃもじにのせて、決して押さえるようなことはせずに、ころっと転がすように茶碗に盛る。いわゆる一文字盛りだ。それに南高梅の梅干しをちょっとずつ箸でつまんでごはんに乗せて食べる。ごはんの甘みと梅干しのほどよいしょっぱさが合わさって実においしくて、いつも終わりが惜しい気持ちになる。

『暮しの手帖』の仕事をする際、日本料理をしっかりと学ぼうと思い、『日本料理かんだ』の神田裕行さんを訪ねた。それから二ヶ月に一度、通うようになり17年が経った。神田さんの料理の素晴らしさはいうまでもなく、その料理を盛る器も、これ見よがしさがない逸品ばかりで、わかる人にはわかる楽しみがある。

神田さんが料理の最後に出すごはんに使う漆の茶碗がある。それは外側と内側に細かい筋が入ったもので、手にすべらずに持てて、筋があることでごはんの粒が茶碗の内側にくっつかずにとても食べやすい。その良さに感動して、「こちらはどちらのものですか?」と聞くと、「山中漆器の千筋茶碗です。私が思うに、ごはんがいちばんおいしくいただける茶碗です」と教えてくれた。千筋というのは、茶碗の木地をろくろ挽きで、たくさんの細かい筋を引く技術の呼び名だという。

そんな出会いで手に入れた欅の千筋茶碗。今日もごはんと梅干しが主役の食事に手を合わせている。*わが家は玄米四割のごはん。

 

食いしん坊のクローゼット

001 三時のおやつに菊皿      
002 アスティエの角皿        
003 リーサ・ハッラマーのデザート皿 
004 1930年代のカフェオレボウル    
005 「if」のピューター皿
006 白磁の茶椀
007 木の平皿
008 ブルーウィローの皿
009 安南焼の茶碗
010 成田理俊のステンレス皿
011 サーラ・ホペアのコップ
012 仲村旨和のカッティングボード
013 レモンの木の小皿
014 マルック・コソネンのバスケット
015 スティーブ・ハリソンの皿
016 鳥獣戯画の盛鉢
017 ラッセル・ライトのカレー皿
018 木曽ひのき漆器の弁当箱
019 欅の千筋茶碗
020 パリの買い物
021 アラビアのライス
022 沖縄の「やちむん」
023 ハルデンワンガーのセラミック皿
024 ベニントンポタリーのマグカップ
025 ウォルター・ボッセの「青いクマさん」

松浦弥太郎

著者プロフィール

エッセイスト
松浦弥太郎

2002年、セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年からの9年間『暮しの手帖』編集長を務める。その後、IT業界に転じ、㈱おいしい健康取締役就任。2006年より公益財団法人東京子ども図書館役員も務める。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Delucaマガジン」編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。映画「場所はいつも旅先だった」監督作品。著書に「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」など著書多数。

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