お食事処 東山
村の味を守り続けるお食事処「東山」の店主、亀割さんに話を聞きました。
.png)
「下條へ帰ったら、東山だよね」
みんなが帰りたくなる場所へ
結婚を機に店に入り、義母とともに働き始めて30年。受け継いだラーメンの味を守りながら、常連客や子どもたち、アルバイトを迎えてきた。「結婚するなら、店をやってもらわないと」そう言われ、嫁いですぐに「東山」ではたらきはじめた。
補助のような仕事からはじめ、少しずつ料理を任されるようになり、店の味と日々を身につけていった。転機は義母が亡くなったとき。周囲からは『もうお店を閉めてもいいんじゃない』とやさしい言葉を言ってもらえたけれど、店を愛する人たちの言葉に支えられ厨房に立ち続けている。
オイシサノトビラ
お店を閉めてもいいと言われても、店を続けることを選んだんですね。
亀割さん
みなさんがこの店を愛してくださっていることは、すごく感じていて。だから、やめるという選択はできませんでした。
男性のアルバイトもいますが、ふだん店に立っているのは、昔から女性が中心。そういうところも、気楽に安心してもらえる雰囲気につながっているのかもしれません。家に帰ってきたように感じてもらえる店なのかなと思います。
創業当時から店に立っている義母の妹は、うちの“看板娘”のような存在。接客や会話を楽しみに来てくださる方もいるんですよ。料理を食べるだけでなく、そこで言葉を交わすことも、東山に来る楽しみのひとつになっているんだと思います。
「下條へ帰ったら、東山だよね」
毎日のようにラーメンを食べに来る人、麻婆ラーメンの日や火曜日のカレーの日を楽しみに、毎週訪れる人もいる。仕事で近くへ来た人たちが立ち寄ったりもする。お客さんとの付き合いは、いつしか世代をまたぐようになった。赤ちゃんの頃から来ていた子が結婚して、自分の子どもを連れて来る。村外から訪れる人もいる。夫婦で通っていたお客さんが夫を亡くしてから、ひとりでラーメンを食べに来たこともあった。
オイシサノトビラ
お客さんから一番よく注文されるのは、やはりラーメンですか。
亀割さん
ラーメンですね。義母から受け継いだ味を、ずっと守り続けています。学生や仕事で都会へ出た子たちも、下條に帰ってくると『帰ったら東山だよね』と言って、ここに集まってくれるんです。帰ってこられる場所でもあるし、うれしいことに帰ったら食べたくなる場所になっているのかなと思います。少年野球で勝ったときにここで食べるのがご褒美だった子たちが、大人になってからも来てくれたりもします。
思い出に残るのは、人それぞれなんですよね。ラーメンの人もいれば、カレーの人もいる。それぞれにとっての思い出の味になっているのかなと思うとうれしいですね。
オイシサノトビラ
うれしいことだけじゃなく、苦しいこともあったと思います。その時、支えになったことはありますか。
亀割さん
「東山がなくなったら悲しい」「あの味を食べたくて来ているんだから」と、いろんな人が言ってくださるんです。言葉に人に支えられています。もちろん、長く続けていれば難しいこともある。でも「おいしかったよ」の一言で、帳消しになります。
オイシサノトビラ
アルバイトだった子たちも、家族のような存在だと聞きました。
亀割さん
高校卒業後に都会へ出た子が帰省すると店に顔を出してくれたり、ふだんは本当に口数が少なくて大丈夫かなと心配していた子が専門学校へ行って「就職が決まりました」と報告に来てくれたり、我が子のことのようにうれしかったです。
推し活も愉しめるお店
自身も、子育てをしながら店に立ってきた。土日も夜も家にいないことが多く、子どもたちは父親と食事をすることが多かった。「もっとしっかり子育てをしたかった」と、今でも思うことがある。ある時、結婚した娘に「寂しかった?」と聞くと、『全然』と返ってきた。本当は寂しかったのかもしれない、と振り返る。
オイシサノトビラ
今は、ご自身のために休むこともできていますか。
亀割さん
そうですね、以前よりは休ませてもらっています。舞台を見に行ったり、野球を見に甲子園まで行ったりもします。従業員にも「いつ休んでもいいよ」と言っています。お互いさまなので、自分も休む。そういう環境が一番なのかなと思います。
オイシサノトビラ
しょうゆラーメンに使うスープは、今はもう亀割さんにしか作れないと聞きました。
亀割さん
味だけは変えちゃいけない。それだけは、ずっと守らなきゃと思っています。
何がおすすめかと尋ねられても、「全部おいしいですよ」と言えるほど、東山の料理そのものが好きです。その気持ちがあったからこそ、30年続けてこれました。いまの心配は後継者。娘2人は店とは違う仕事をしている。今、小学1年生の子が「高校生になったら、ここへアルバイトに来たい」と言ってくれているんです。「そこまで待てるかな」と思いながらも、その言葉がうれしくて頑張ろうと思えるんです。
オイシサノトビラ
さいごに、ご自身にとって忘れられないご飯や、オイシサを感じる食事について教えてください。
亀割さん
やっぱり、人に作ってもらったものがおいしいです。お店ではスタッフが作ってくれたりするんですが、おいしいですよ。わたしは子どもの頃、ほとんどが母の手作りの料理で育ちました。だから、手をかけてくれたご飯のおいしさを知っているんだと思います。簡単なものでも、人が作ってくれたものが一番おいしいのかなと思いますね。
了
メッセージ