うまいもの館
信濃路下條

うまいもの館

下條村の”ふるさとの味”が集まる「うまいもの館」ではたらいて20年余り。春のよもぎから冬の餅つきまで、仲間と巡る一年と、家族の食卓に残る味をひろこさんに聞いた。


何かあってもここに来れば少し気が済む

下條村に生まれ、結婚を機に一度村を離れたひろこさん。旦那さんのお仕事をきっかけに下條村に戻り、平成14年から「うまいもの館」ではたらいている。

オイシサノトビラ
うまいもの館ではたらくことになったのは、どのようなきっかけだったのでしょう。

ひろこさん
買い物に来たときに、「ここへ来ない?」と声をかけられたんです。最初は週に1、2回くらい。そのうち先輩たちが少しずつ辞めていって、気づいたら古い順で2番目。ベテランになっちゃいました。

オイシサノトビラ
一緒にはたらくみなさんは、どんな人たちですか。

ひろこさん
休みの日に一緒に出かけるような友だちというよりも、仕事仲間。それぞれの暮らしがあって、ここに集まると、ああだこうだと言いながら仕事をする。言いたいことを言って発散して。家で何かあってもここに来れば少し気が済む。そんな職場です。
朝は、「よもぎっこ」や「そばまんじゅう」から作りからはじめます。それから餅をついて「おやき」や「こんにゃく」を作る。餅は冬だけではなく、真夏も含めて毎日ついてるんですよ。
よもぎはこの村ではよく採れるんですが、4月になると、一年分のよもぎを摘みます。村の女性たちが毎日少しずつ摘んで、量はだいたい500キロくらい。それを茹でて冷凍しておきます。使うときは餅つき機でついて、餅に練り込むんです。

オイシサノトビラ
よもぎの季節が過ぎても、次の季節の仕事が続くんでしょうか。

ひろこさん
よもぎの仕込みが終わると、今度はカリカリ梅を漬けます。8月はお盆の餅、9月はお彼岸のおはぎ、11月は地域のお祭りに合わせて五平餅を作る。秋はイベントで県外に売りに行くこともあります。
12月になると、いよいよ餅つきの季節です。今は家で餅をつかなくなった人も多くて、もち米を持って『これをついて』と頼みに来るんですよ。家庭用の機械でこねた餅と、きちんとついた餅では、やっぱり味が違いますよ。
1月、2月は少し静かになりますが、3月にはまたお彼岸がやってくる。野沢菜を塩漬けにしたり、大根やきゅうりで福神漬けを仕込んだりもするので、結局、一年中何かしら仕事があるんです。

オイシサノトビラ
忙しい日々の合間にも、新しい商品を考えると聞きました。

ひろこさん
蕎麦羊羹を試作したり、夏にはかき氷、秋には焼き芋をやろうと話している。ただ、そうこうしているうちに秋の忙しさが来て、はじめる暇がなくなっちゃう笑

オイシサノトビラ
一年中忙しそうですね。長く続けるための秘訣ってありますか。

ひろこさん
がんばりすぎないくらいがいいんです。毎日の仕事ですし、家のこともしたい。かき氷もやってみたいけれど、はじめれば一人がそこに時間を取られてしまうでしょ。次にやりたいことがあるくらいがいい。
はたらいている人は、みんな幸せなんじゃないかな。次に何をしようかなと考えながら、仕事がすーっと進むと、すごく気持ちがいいし、楽しいですよ。

記憶に残るのは、食べた場面

下條村の「うまいもの」を知るひろこさんにとって記憶に残っている食事はどのようなものなのか...。下條村ならではの食事の話とともに話を聞きました。

オイシサノトビラ
うまいもの館には、下條村のいろいろなものが集まりますよね。この地域ならではの食事について教えてもらいたいです。

ひろこさん
「おせち」を紹介するのがいいかもしれない。一般的には「おせち」って年を越してから食べるものかもしれないけれど。この辺りでは、年を越すためのごちそうを「おせち」と呼んでいたんです。里芋、こんにゃく、糸昆布、ごぼう、にんじん、豆腐などを、必ず奇数の種類だけ入れて、醤油で煮ます。大鍋いっぱいに作って、正月中食べるんです。割り切れないから、奇数がいいんだと思います。茶碗蒸しも並んだりしますね。そして、どれだけお腹がいっぱいでも、最後には白いご飯を食べる。この辺りは年越しそばじゃないんですよ。

オイシサノトビラ
ひろこさんにとって、忘れられない食事はありますか。

古田さん
父が酒飲みだったので、夕飯の前にはよく酒のつまみが出ていたんです。モツ煮なんかですね。母が夕飯を作っているあいだ、父が飲んでいる横で、私も弟も一緒につまんでいました。だから今でも、酒のつまみは好きです笑
母の料理で覚えているのは、味ご飯ですね。昔はお客さんが急に訪ねてくることが多くて、『これから行くよ』と連絡があると、母が慌てて作っていました。地域でお葬式があると、組合のみんなで集まって、親戚の人たちの昼食や葬儀のあとの料理を用意したんです。巻きずしやいなりずし、うどん、天ぷら、こんにゃくなんかを作っていました。夏は、油味噌ときゅうりが定番でしたね。
おばあちゃんの料理では、やわらかく煮たかぼちゃと、新じゃがの頃にカレー粉を入れて作ってくれたじゃがいもを覚えています。どうしてでしょうね。きっと、おいしかったんだと思います。でも、味だけではなくて、家族や近所の人たちが台所に立ち、みんなで食べた場面まで一緒に残っているんです。

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